2009年09月25日

イノシシ

イノシシ(イノシシ、豬、Sus scrofa)は、ウシ目(偶蹄目)・イノシシ科に分類されます。犬と同じくらい鼻が非常に敏感で神経質な動物です。イノシシは、良質の肉をもたらす狩猟獣として、また作物を荒らす害獣として人間の生活と深くかかわってきました。民話にもよく登場し、干支にも数えられるほど馴染み深い動物ですが、野生の姿を実際に見た人は意外と少ないに違いありません。それは、イノシシが森林の中で生活しているからです。

 また、泥浴中のイノシシ古くから狩猟の対象とされてきた動物の一つで、そのせいか非常に神経質で警戒心の強い動物です。普段より見慣れないものなどを見かけますと、それをできるだけ避けようとする習性があります。また、非常に突進力が強く、人を襲うケースも多いです。イノシシは70kgの体重があり、また時速45kmで走ることも可能であり、さらに牙も生えているため、イノシシの全力の攻撃を受けますと、人間の大人でも大けがを負う危険があります。

 多くの匂いに誘引性を示し、ダニ等の外部寄生虫を落としたり体温調節をするために、よく泥浴・水浴を行います。泥浴・水浴後には体を木に擦りつける行動もたびたび観察されます。特にイノシシが泥浴を行う場所は、沼田場(ヌタバ)と呼ばれ、イノシシが横になり転がりながら全身に泥を塗る様子から、苦しみあがくという意味のぬたうちまわる(のたうちまわる)という言葉が生まれました。

 ニホンイノシシは本州、四国、九州、淡路島、小豆島に分布します。足が短く雪が苦手なため、豪雪地帯には分布しないとされてきましたが、日本海側では平年値の積雪が2mを超える福井県の山間部にも出没するようになりました。長野市、須坂市など長野県北部の市街地でも目撃され、人的な被害も報告されています。また、太平洋側では宮城県南部が分布域の北限とされていましたが、近年は北上傾向にあり、仙台市の西部にある奥羽山系・泉ヶ岳の裾野での生息や仙台七夕用の竹の被害などが報告されています。

 このように広い範囲に生息しているのは、イノシシが雑食性であることや多産であることにもよりますが、好適な生息地である里山が広く日本中に広がっていることが大きいです。里山の林は一般に下生えが多く、隠れ場所を提供するとともに、餌植物も豊富です。イノシシは林床を歩き回って餌を探します。雑食性で何でも食べますが、主に植物食で、新芽・新葉、地下茎や地上に落ちた果実を食べます。

 雄は単独で生活し、雌は一腹の子どもと母子グループをつくって生活しています。雄と雌は交尾期以外は別々に生活して接触をもたないことや、母子グループには成獣は母親一頭しかいないことを考えますと、ニホンイノシシの社会は「単独型の社会」といえます。

 ただし、時には血縁関係のある母親が数頭集まって大きなグループをつくることもあります。有蹄類の中で、森林に適応したものは単独型の社会、草原に適応したものは群れ型の社会をもつといわれますが、このことはニホンイノシシについても当てはまるようです。しかしながら、ヨーロッパではイノシシはよく群れることが報告されています。

 近年、同種の動物でもその社会のあり方は固定されたものではなく、生息環境によって、ある範囲で変化すると考えられるようになりました。イノシシの社会もそれを示しているようです。残念ながら、日本とヨーロッパでみられるイノシシの集合性の違いが何によるかはまだ明らかにされていません。ただ、ヨーロッパで調査された生息地は、その写真を見る限り、いずれも下生えが少ないように感じられます。見通しのよい開けた環境では、外敵などに対して集団でいるほうがよいのかもしれません。

 繁殖期は12月頃から約2ヵ月間続きます。繁殖期の雄は食欲を減退させ、発情した雌を捜して活発に徘徊します。そして発情雌に出会いますと、その雌に寄り添って他の雄を近づけまいとし、最終的にはより体の大きな強い雄が雌を獲得します。雌の発情は約3日で終わり、交尾を終えた雄は次の発情雌を捜して再び移動していきます。結果、強い雄は複数の雌を獲得できるため、イノシシの婚姻システムは一種の一夫多妻であるとも言えます。雄は長い繁殖期間中ほとんど餌を摂らずに奔走するため、春が来る頃にはかなりやせ細ります。

 巣は窪地に落ち葉などを敷いて作り、出産前や冬期には枯れ枝などで屋根のある巣を作ります。通常4月から5月頃に年一回、平均4.5頭ほどの子を出産します。秋にも出産することがありますが、これは春の繁殖に失敗した個体によるものが多いです。妊娠期間は約4ヵ月。雄は単独で行動するが雌はひと腹の子と共に暮らし、定住性が高いです。子を持たない数頭の雌がグループを形成することもあります。

 ニホンイノシシは多産で、一回に4〜6頭、時には8頭も子どもを産みます。一回にたくさんの子を産むため、生まれた子どもの体は小さいです。一産1子がふつうの、ほぼ同じ体重のヒトやシカなどに比べますと、出生時の体重は6分の一ほどしかありません。体が小さいですと、体重に比べて表面積の割合が大きくなって体温が奪われやすいです。このため、母親は屋根のある巣をつくり、風雨から子どもを守って育てます。また、このような巣は外敵から子どもを隠すのにも役立ちます。有蹄類の中でイノシシが例外的に巣をつくるのは、子どもの保護とも関連しているようです。体の小さい子どもは、体力が十分でないためによく死にます。

 生後約3ヵ月で離乳しますが、このころには生まれた子どもは約半数に減っています。このような高い死亡率にもかかわらず、母親は授乳・巣づくり以外に積極的な子育てをしません。母親は子どもがそばで衰弱していても無関心です。そればかりか、子どもが掘り出している餌を横取りさえします。母親にとっては、次の出産に備えて自分の体を整えることが、一生の間に多くの子どもを残すためには大事なのです。一般に動物の子育てのやり方は大きく二つに分けられます。一つはたくさん産んで放任して育てるやり方、もう一つは少なく産んで大事に育てるやり方です。どちらの子育てをするかは動物によって異なりますし、同じ動物でも生息環境によって影響されます。イノシシは前者の子育てを選んだ有蹄類といえます。
posted by ss at 00:06| イノシシ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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